魚類の1日毎の経験水温を世界で初めて解明

           魚類の1日毎の経験水温を世界で初めて解明
           ―謎だらけの魚類生態の理解と資源保全へ―

概要
 京都大学大学院人間・環境学研究科の武藤大知 修士課程学生(研究当時:茨城工業高等専門学校)および石村豊穂 准教授(研究当時:茨城工業高等専門学校 准教授)、水産研究・教育機構の髙橋素光 主幹研究員、筑波大学生命環境系の西田梢 特任助教(研究当時:茨城工業高等専門学校、学術振興会 特別研究員)の共同研究グループは、魚類の1日毎の経験水温を世界で初めて解明しました。
 水温は海洋生物の分布を決定する最も重要な環境要素の一つで、今後の地球温暖化による海水温の変化は、多くの海洋生物の分布や資源量の変化に大きな影響を与えると考えられています。水産資源を今後も持続的に利用していくためには、水温変動が魚類の成長や分布・回遊に与える影響を理解することが重要ですが、海洋を大規模に回遊する魚類の経験環境を詳細に観測する手段には限界があり、魚類の生息環境や生態の理解は進んでいませんでした。本研究では独自開発の安定同位体※1分析技術と画像解析によりマアジ耳石※2の超微小領域の炭素酸素安定同位体(δ13C・δ18O)分析を実現し、魚類個体の稚魚期における1日毎の経験水温を明らかにすることに世界で初めて成功しました。この成果はマアジの成長・生残に最も重要である稚魚期の生態解明に大きく寄与すると期待され、多魚種への応用によって将来的な水産資源の動態評価や資源保全策の策定にも貢献できると考えています。また、鍾乳石・貝・サンゴなど地球環境の変化を記録する炭酸カルシウムの高時間分解能解析にも応用が期待できます。
 本成果は、2022 年7月29 日に国際学術誌「Rapid Communications in Mass Spectrometry」に掲載されました。
 なお、本研究は筆頭著者の武藤さん(現:京都大学大学院修士1年)が本校の卒業研究として遂行した研究を論文として発表したものです。

詳しくはこちら(京大プレスリリース)から。

<論文タイトルと著者>
タイトル Extracting daily isotopic records on fish otolith (Trachurus japonicus) by combining micro-milling and micro-scale isotopic analysis (MICAL-CF-IRMS)
(微量切削と微量同位体分析技術の融合によるマアジ耳石の日々の同位体履歴の解明)
著者 Daichi Muto, Toyoho Ishimura, Motomitsu Takahashi, Kozue Nishida
掲載誌 Rapid Communications in Mass Spectrometry
DOI https://doi.org/10.1002/rcm.9366

 あわせて、同時プレスリリースの下記関連研究も御参照ください。茨城高専で行った微量同位体分析データを活用し、マイワシの太平洋の東西での環境変動に対する応答様式の違いを解明した画期的な研究成果です。
[関連研究]
大洋の東西で異なるマイワシの環境応答――耳石が示すグローバル生存戦略の鍵――
Sakamoto et al. (2022). Nature Communications (東京大学プレスリリース)