電子制御工学科 小沼弘幸 助教

子供にも埋め込める

小型の磁気浮上型補助人工心臓を作りたい

~磁気浮上モータの小型化と高効率化への取り組み~

電子制御工学科科 小沼弘幸 助教

全世界で何千人もの心臓疾患の患者さんが埋め込んでいる補助人工心臓。その補助人工心臓のさらなる進歩として、磁気浮上モータの小型化と高効率化に挑む。

何についての研究をされていますか

  『磁気浮上型補助人工心臓』の研究をしています。具体的には、遠心ポンプを補助人工心臓として用いているポンプのインペラ(ロータ)を磁気の力によって浮かすことで高耐久性や高い血液適合性を実現できる磁気浮上型の補助人工心臓です。安定的に非接触にロータを磁気浮上支持・回転させるにはブラシレスモータとロータの5自由度を磁気支持する磁気軸受が必要となります。そのため、装置は大きくなってしまいます。そこで、モータのステータと磁気軸受のステータが同じような形状であることからひとつのステータでモータと磁気軸受の機能を併せ持つセルフベアリングモータが提案され磁気浮上モータの小型化が図られました。また、永久磁石の鉄心を強く引き付ける力からなる受動安定性を利用することで更なる小型化が可能となります。本研究で開発している磁気浮上ポンプには径方向磁気支持回転型セルフベアリングモータを用いています。本セルフベアリングモータは径方向2自由度と軸回りの回転を能動的に制御し、軸方向と径方向回りの傾きは永久磁石による受動安定性で静的に磁気支持することで、完全非接触な磁気浮上と回転を実現しています。現在、本磁気浮上ポンプを小柄な患者や子供に適用可能とするために、国の研究費を得て更なる小型化、高効率化に関する研究を行っています。

この研究はどんな思いでやられていますか

 心臓移植は重篤な心疾患患者の治療の一つの方法となります。日本においては1997年に臓器移植法が施行されて、脳死ドナーからの臓器移植が可能となりました。昨年、日本臓器移植ネットワークに登録されている心臓移植希望患者数は300程ですが、心臓移植されたのは37件でした。待っている間に亡くなるかたもいます。ドナー不足は深刻な問題となっています。

 血液循環を機械的に行う人工心臓は1950年代から研究開発されていて、人工心臓は大きく全人工心臓(TAH)と補助人工心臓(VAD)に分けられます。TAHは心臓移植の代替え手段としての人工心臓です。自己心を摘出しTAHを体内に埋め込むことになります。現在、ターボポンプを人工心臓として用いている左心補助人工心臓(LVAD)が多く使用されています。LVADは主に心臓移植への橋渡しまたは自己心の回復への橋渡しとして使用されてきていました。最近では、深刻なドナー不足、患者の高齢化や合併症などのさまざまな理由で心臓移植の適用外になっている患者さんが増加しています。そのため、補助人工心臓の永久使用が注目されています。体内埋め込み型補助人工心臓は年オーダーの機械的寿命、血液破壊(溶血)や凝固(血栓)が生じない血液適合性が望まれます。

 そこで、より小型で信頼性の高い磁気浮上型人工心臓が開発できれば、血液適合性が良く、直接心臓に取り付けられ埋め込みに対する体の負担が軽減できて、なおかつ小柄な患者にも埋め込み可能な人工心臓が実現できると考えています。年オーダーの機械的寿命、理想としては5年以上動き続けるものを作り、患者さんが装置取り換えのための手術を何度も受けなくて済むようにしたいです。経済的負担が減るよう、装置や手術がなるべく安価になるようにもしたいです。

磁気浮上型にしたのはなぜですか、どんな苦労がありますか

 血液は通常の液体と異なり、擦れると赤血球が壊れる、流れが滞ると固まる、などの性質があります。血のかたまりができ、それが流れていくと脳梗塞などを引き起こし、すぐに命にかかわります。そこで、擦れを無くすには接触部分を無くすと良い、そのためにはポンプのインペラを浮かせば良い、となるわけです。磁気の力で浮かすので『磁気浮上』です。装置の中で擦れる部分が無いことは、装置自体の寿命を延ばす効果もあります。磁気浮上型ポンプのインペラには、磁気浮上モータの制御からの磁気的な力、回転体であることの機械的な力、ポンプとしての流体的な力が作用していることから、磁気浮上モータの構造、ポンプの構造、磁気浮上モータの制御方法、などいろいろな工夫をしながら開発を進めています。また、体内埋め込み型にするためには小型で高効率なものにする必要があります。

磁気浮上型補助人工心臓の研究をするようになったきっかけはなんですか

 茨城大学の学生時代にバイオメカトロニクスを専門とする増澤徹教授の研究室に所属したことが始まりです。博士後期課程での研究の中で民間企業と共同研究を行う機会もありました。学生時代から約15年、一時期その民間企業に在籍した期間も含め、磁気浮上モータやそれを用いた磁気浮上型ポンプひと筋で研究をし続けています。

先生ご自身のこと、今後の夢・抱負などをお聞かせください

 水戸で生まれました。小さいころからものづくりが好きで、学者になりたいという夢がありました。機械工学科に行こうと決めたのは高校生のときです。増澤研究室では3年後輩の妻と出会い、今も一緒に研究をしています。将来は、磁気浮上ポンプで、妻と起業するかもしれません(笑)。
 研究室でお預かりしている学生さんには、ものづくりの楽しさを知ってもらいたいので、設計したものを製作して、その動作実験をしてもらいます。これにより、ものづくりの一連を経験させています。磁気浮上型補助人工心臓の研究は複合技術の塊なので、モータ屋でもポンプ屋でも鉄道屋でも、進路の可能性はとても広いはずです。

教え子からひとこと  電気電子工学コース専攻科1年 廣木康平さん

 小沼先生は茨城大学を卒業後、一度企業に就職してから茨城高専教員としてやってきました。とても優しい先生で、分からないことがあり質問に行くと、自身の作業途中でも中断し丁寧にご教授下さり、それでも理解できなかった場合は、分かりすい資料を検索又は作成してくださいます。研究課題に対し、それを解決する手段を考え実行し、結果を検討・報告すると、間違っている箇所等を指摘してくださる、といった感じで、丁寧にご指導いただいています。

また、地元企業との連携も進めたいと考えます。現在、研究部品の調達は過去の流れで県外の企業からなのですが、茨城工業高校専門学校地域協働サポートセンターが設立されたことを機会に、地元企業と知り合えるチャンスが増えることを希望します。たとえばですが、生体に埋め込むにはチタンが最適なので、チタン加工をやってくださる企業があったらありがたいです。

参考文献 一部抜粋

12突極ラジアル型セルフベアリングモータの磁気支持特性の推定:小沼弘幸 増澤徹,日本AEM学会誌, 22(2), p88‒95, 2014年6月

講演・口頭発表

Evaluation of Magnetic Suspension Characteristics and Levitation Performance of A Centrifugal Blood Pump Using Radial Type Self-Bearing Motor:Hiroyuki Onuma and Toru Masuzawa
Proceedings of 14th International Symposium on Magnetic Bearings, pp.174-179, 2014年8月

研究者詳細

http://research.kosen-k.go.jp/researcher-list/read0150526

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